孤独な天使 A

アスランは、キラを引き取ることを決め園長の許しを得た後、
屋敷へ戻るためキラを伴って車に乗った。
「ああ、その店の前で止まって。」
その途中、運転手に車を停車させ一軒の店へ入ってゆく。

「これは、アスラン様。いらっしゃいませ。」
店の主人はアスランを見ると、丁寧にお辞儀をして
「今日は何の御用でしょうか?」
「彼に合うサイズの男の子用の下着と、洋服一式を用意して欲しいんだ。」
アスランはキラに顔を向けて言った。
「これは…アスラン様がお子様連れとはお珍しい。ご親戚のお方で?」
「うん、今日から僕の息子になったんだ。」
「今日から…」
店主は目をまるくしたが、それ以上の詮索はやめ、
アスランの注文どおりの品をそろえた。
この街で商売する者はみな、何らかの恩恵をアスランに受けている、
だから逆らったり、機嫌を悪くさせるような事は決して誰もしないのだ。

「ありがとう。」
その包みを持って、アスランが待たせておいた車に再び乗り込むと、
しばらくして車は街はずれの広大な屋敷へ入っていった。
「ここが今日から君の家だよ。」
傍らのキラに優しく声をかけるが、やはり彼からの反応は何もない。
アスランは小さく溜息をついて、車のドアをあけ降りるように促す。
「お帰りなさいませ、アスラン様。」
そして玄関のドアが開くと、執事のサイが二人を出迎えた。



「ああ、ただいまサイ。今日から僕の息子として
この屋敷に住まわせることにしたキラだ、
彼を風呂に入れて身なりを整えてやってくれ。部屋は…
そうだな、とりあえず今日は来客用の部屋を用意して。それと、
夕食は僕と一緒にとるから9時にはダイニングへ連れてくるように。」
「かしこまりました。」
サイは若いがよく教育された優秀な執事である。
主人が突然連れてきたこの子供を見ても驚きの表情を出すような
無作法なことはなく、また命令を問い返すこともなく、
ただ頭を下げ、淡々と主人の言葉どおり動いた。
まずアスランの帽子とコートを受け取り、背後に控えていたメイドへと渡し、
丁寧な物腰でキラを奥の部屋へと連れていく。

アスランの方も、何も変わったことなどなかったように、
いつもどおり自室へ入ると残されていた仕事の続きにとりかかる。
黙々と作業をこなし、時計が9時を報せるとようやくデスクから立ち上がって
ダイニングへ向かった。いつもは一人で食べる夕食だが、
今日はさきほどサイに申し付けたとおりに、風呂に入れられ衣装を
着替えさせられてサッパリした身なりのキラが、
向かいの席にすでに座らされて待っていた。

「ああ、ずいぶんと良くなったね。」
施設からの帰り、自ら洋装店へ寄り買ってきた衣装は、
サイズも色もキラにとてもよく似合っていた。
その様子に満足したように、アスランは椅子に腰を降ろす。
だがいつもなら、何も言わずともすぐにスープが運ばれ、食事が始まるのだが、
執事のサイが珍しく感情を表に出し、困惑したような表情で主人を見つめていた。

「…サイ、どうかしたのか?」
アスランが気づいて声をかけると、彼は少し、迷ったような素振りをみせたが口を開く。
「アスラン様…さきほどキラ様を入浴させたメイドの話によりますと…その…」
「キラがどうかしたの?」
「この方は…キラ様は男性ではなく…女性だと…」
「…っ!?」
信頼する執事の驚くべき報告に、アスランは一瞬言葉を失って
「なんてこった…」
頭を抱えた。


Bへつづく